この冬の(旅)について。もしくは、この冬の(演劇)について。

また、旅、である。
いや、たまには演劇のことをば。
F/T13のことを書こうと思う。


今年はいつもよりF/T(フェスティバル・トーキョー2013)のプログラムを積極的にみた。特に意図があってというわけじゃないけど、たまたま、みたいという思いが強くて。だから金欠になった。困った。
今年のF/Tのコンセプトは「物語を旅する」だったそうです。フェスティバルの途中で知ったのですけど。


みたいと思ったもの全てをみれたわけじゃないけど、特に印象にのこってるものを挙げると、
チェルフィッチュ『現在地』
・中野茂樹、長島確『四家の怪談』
・Port B『東京ヘテロトピア』


チェルフィッチュの公演をちゃんと生でみるのは実ははじめてだった。
いくつか突き刺さるセリフ、場面があった。
それは、自分に突きつけられる問いであり、現実だった。
特に劇中劇の途中で、ある女性が吐く言葉に、戦慄さえ覚えた。
劇場があの瞬間、凍てついたんじゃないかと思った。少なくとも私は凍てついた。
「神妙な顔をして」あの場にいたであろう私は。
その他にも、この言葉きいたことある、こんな体験したことある、ああ、あの感情を言葉にするとこういうことだったのか、という自分の今の生活とシンクロする場面が多く、それは多くのお客さんにとってそうだったと思う。
違う立場、違う角度から世界をみている他人でさえ、同じ響きをもって、観劇した人は多いんじゃないかと。


近くにいたと思っていた人が、あることをきっかけに、ずいぶんと遠い存在に感じること。
噂を信じるか信じないか、よりも、その噂に対して、自分とは違う態度をとっている人とどう付き合うか、がより難しいということ。
誰もなにも悪いことをしてなかったはずなのに、誰も幸せじゃない。
こんなにも、鏡で自分の生活を覗くような観劇体験は初めてだったんじゃないかと思う。


そして『四家の怪談』と『東京ヘテロトピア』
どちらも今年のフェスティバルのコンセプトの通り「旅する」演劇だった。実際に自分の足を使って移動したし。
『四家の怪談』はある短い小説と恣意的な地図をたよりに、好きなように歩くというもの。北千住・五反野周辺。
ゆるく設定された目的のもと、何時間でもさまよえる。
日常の中で、非日常を生きられる。
普段、何か予定がなければ知らない町に行くことはないし、どこかぶらりと町歩きしたいと思ってもそんな余裕はない。
「観劇」という枠の中で、自分の一日(または数時間)を『四家の怪談』に預け、小説と地図を手に、しかし実際には自分の足と目と嗅覚で、その町を味わう。そこに息づくものを感じ、集う人たちを眺めたり、旅人として場や時間を共有したりする。
なんとも不思議な感覚だった。
いつもの私だったら気になりもしない赤提灯の焼き鳥屋に一人でふらりと入り、夕方早い時間から一杯やってるおじさんやおばさんたちと飲み、談笑するなんて。
知らない町の銭湯に入り、同じ湯船の人に話しかけるなんて。
彼らの日常と、私の非日常が重なっている。なにかしら、今、いる、ここ、に歪みが生じている感じ。今見えているものに波紋が生じている感じ。
あれは確かに演劇だった。
今思い出して書いているだけでも、興奮してくるのはなんだろう。


『東京ヘテロトピア』は、東京都内各所のアジアの声を拾うもの。
携帯ラジオと案内書を持って、地図にある各スポットに赴き、ラジオのチューニングを合わせ、物語を聞く。案内所にはその場所にまつわる歴史的背景などが簡単に書かれている。
アジア各国の専門料理の店だったり、史跡であったり、教会だったり、雑貨屋だったり、博物館であったりする。
今まで知らなかった東京の顔をみる。
(例えば、私が学生の頃から通っていた高田馬場がリトル・ヤンゴンと呼ばれるほど、ミャンマービルマ)出身の人が多く暮らしている街だなんて知らなかった。)
ラジオから流れる物語に耳を傾け、そこに集まっている日本語以外の言葉をもつ人たちをぼんやりとみる。
イヤホンから聞こえる物語は確かにフィクションなのだろうが、そこにいる人たちやその場所がもつ物語の一つだろうと思う。
そこは東京にいて、東京ではない場所。東京にいて、アジア各国のにおいを感じる場所。
『四家の怪談』の「日常/非日常」と同じで、二重性を肌で感じる。
そして『四家の怪談』よりも『東京ヘテロトピア』の波紋は、長く私の生活を揺らしている。
歩いていて、以前よりもアジア料理店に目を止めるようになった。そしてその店のバックグランドにはどんな物語が流れているんだろうと思いを馳せるようになった。
今まで何度も通ってきた道に、香港料理屋があるのを発見したり、個人経営らしきインドカレー屋の客の入りが気になったり。ふと、いつも通り生活している私のもとへ、ヘテロトピア効果が現れる。
他者の顔がぬっと現れる。
驚き。
今回、期間中に回れたのは一部のスポットのみだったので、ぜひとも再演(再放送)ならびに続編を期待します。


東京から出ることなく、大きな旅をした今回のF/T
短期間でいい作品にたくさん出会えて嬉しかった。いい冬の旅でした。
写真はどちらも『四家の怪談』でのもの。


よいお年を。よい旅を。よい人生を。